神戸地方裁判所 平成2年(ワ)541号 判決 1991年5月29日
原告
沖野敏男
被告
国
右代表者法務大臣
左藤恵
被告
兵庫県
右代表者知事
貝原俊民
被告両名指定代理人
田中素子
同
北村博昭
同
山崎正義
被告国指定代理人
中筋孝二
同
峰広幸
被告兵庫県指定代理人
西村信行
同
嶋津良純
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一 原告の請求
被告らは連帯して原告に対し金九〇〇万円を支払え。
二 原告の請求原因
1 本件登録取消処分・裁決に至る経過
(一) 原告は昭和五六年六月一日、神戸港労働公共職業安定所(以下「神港職安」という。)の登録日雇港湾労働者となった。
(二) 神港職安所長は昭和六一年一〇月一七日原告に対し、次の理由で日雇港湾労働者登録取消処分(以下「本件登録取消処分」という。)をした。
(1) 原告は、昭和五七年一〇月四日に発生した公傷(以下「第一傷害」という。)、及び昭和六〇年一一月五日に発生した公傷(以下「第三傷害」という。)について、意図的に公傷期間の引き延ばしを行った。
(2) 原告は、昭和六一年六月一日から同年九月二九日までの間、正当な理由なく無届けで神港職安に出頭しなかった。
(三) 原告は、昭和六一年一一月二九日本件登録取消処分を不服として兵庫県知事に対し審査請求をしたが、兵庫県知事は、昭和六二年四月一一日右請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。
2 本件登録取消処分の違法性
(一) 処分理由の不存在
(1) 原告は、第一傷害については、昭和五八年七月六日まで労働者災害補償保険法(以下「労災法」という。)に基づく休業補償給付を支給されており、第三傷害については、昭和六一年八月時点でも完全に治癒しておらず、公傷期間を引き延ばした事実はない。
(2) 原告は、第三傷害が昭和六一年八月時点でも完全に治癒しておらず、昭和六一年六月以降神港職安に出頭しなかったのは、正当な理由によるものである。
(二)他事考慮
原告が全日本港湾労働組合関西地方神戸弁天浜支部(以下「全港湾支部」という。)と対立していたところ、全港湾支部長が神港職安所長に働きかけた結果本件登録取消処分がなされたのであり、本件登録取消処分は、他事考慮によって作為的に原告を狙い打ちにしたものであって違法である。
(三) 日雇手帳の取上げ、就労拒否
(1) 原告が昭和六一年九月三〇日神港職安へ出頭し、「明日から仕事に出る」と告げたのに、神港職安の担当者は、原告から日雇港湾労働者手帳(以下「日雇手帳」という。)を取り上げ、原告の同年一〇月一日以降の就労を拒否した。
(2) 原告が仕事に出ると告げたのに、神港職安の担当者が原告の就労を拒否したのは、原告の就労を認めると、原告の日雇港湾労働者の登録を取り消せないからであり、原告の日雇手帳を何の理由もなく取り上げて就労を拒否し、本件登録取消処分を行ったのは、著しく信義に反する行為であって違法である。
3 本件裁決の違法性
(一) 兵庫県知事は本件登録取消処分の違法性を認識しながら本件裁決をしており、本件裁決も違法である。
(二) 本件裁決は行政不服審査法二七条、三四条六項、四〇条三項ないし五項に違反する。
4 原告の損害
(一) 損害総額九三〇万一二五〇円
(1) 原告は、昭和六一年一〇月一七日なされた本件登録取消処分により、実質的には同年九月三〇日日雇手帳を取り上げられたことにより、同年一〇月一日以降登録日雇労働者として職場から放逐された。
(2) また、原告は、昭和六二年四月一一日なされた本件裁決により、その職場復帰の道を閉ざされた。
(3) そのため、原告は、本件登録取消処分・裁決により、次の(二)の金銭的損害八八〇万一二五〇円、次の(三)の精神的損害五〇万円、以上合計九三〇万一二五〇円の損害を蒙った。
(二) 逸失利益の喪失分 八八〇万一二五〇円
(1) 昭和六一年一〇月一日から昭和六三年一二月三一日までの登録日雇港湾労働者としての収入 一〇八六万三三五〇円
<1> 登録日雇港湾労働者としての日々の賃金総額九四二万三三五〇円
<2> 登録日雇港湾労働者に対し年二回支給される一時金総額一四四万円
(2) 登録制度廃止に伴う給付金一九八万七〇〇〇円
港湾労働法の改正により、それまでの日雇港湾労働者の登録制度が廃止され、それに伴い日雇手帳の買上げが行われて、登録日雇港湾労働者に給付金が支給されたが、本件登録取消処分・裁決がなければ、原告にも一九八万七〇〇〇円の給付金が支給されていた筈である。
(3) 昭和六一年一〇月一日から昭和六三年一二月三一日までの間に原告が他の職場で働き現実に得た収入 四〇四万九一〇〇円
(4) 逸失利益の喪失 八八〇万一二五〇円
前記(1)(2)の合計から前記(3)を控除した金額
(三) 慰謝料 五〇万円
(1) 神港職安所長や兵庫県知事は、原告が「公傷期間を意図的に引き延ばした」と言って、原告を愚弄し続けた。
(2) 原告は、違法な本件登録取消処分・裁決により、本件登録取消処分取消訴訟・裁決取消訴訟を提起せざるを得なくなった。
(3) そのため、原告は精神的な苦痛を味わったが、その慰謝料は五〇万円が相当である。
5 結論
よって、原告は被告両名に対し、国家賠償法一条一項・三条一項に基づき、前記損害額合計九三〇万一二五〇円の内金九〇〇万円の支払を求める。
三 請求原因に対する被告両名の認否
1 請求原因1項(本件登録取消処分・裁決に至る経過)は認める。
2 同2項(本件登録取消処分の違法性)、同3項(本件裁決の違法性)、同4項(原告の損害)は否認ないし争う。
理由
一 請求原因1項(本件登録取消処分・裁決に至る経過)について
請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因2項(本件登録取消処分の違法性)について
1 本件登録取消処分がなされるに至った経過について
(一) 第一傷害事故の発生とその治療状況
証拠(<証拠略>)によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和五七年一〇月四日日本港運株式会社において艙内荷役作業中左踵骨々折の負傷をし、同日から同年一一月二五日まで神戸博愛病院に入院し、同日から同年一二月一五日まで荻原整形外科病院に入院し、同日から同病院に通院して、業務上災害として休業・治療を受けた。
(2) ところで、原告は、昭和五七年一二月一六日の時点で、左足踵関節の背屈一五度・底屈七〇度で足首がよく動くようになり、歩き方は悪いがほぼ正常の状態にまで回復し、昭和五七年一二月末から昭和五八年正月初めにかけて神戸から郷里の高松に帰省したが、その間大した問題もなく、昭和五八年二月一日の時点では、左足踵の内外板ともよく動き、骨折箇所も既に固まり、足挿板(補助具)を徐々にはずしても歩行に支障がなく、就労可能な状態にまで回復した(<証拠略>)。
(3) そこで、原告の症状について、荻原整形外科病院の荻原一輝医師は、昭和五八年二月一日、症状が固定し就労可能であるとの診断をして、原告にその旨伝えたが、原告は痛みが持続しているとして納得せず、治療を続けるよう求めた。そして、原告はその後も、荻原医師から昭和五八年二月に三回、三月に二回、四月に一回、五月に三回、六月に一回と、引き続き就労するよう強く説得されたが、頑としてこれに応じず断固拒否し、結局、同年七月六日まで休業して治療を続け、同日まで労災保険法に基づく休業補償給付を受給した(<証拠略>)。なお、原告は、その間の昭和五八年六月一四日兵庫労働基準局の官医による診断を受けたが、その結果も原告の症状は固定しているというものであった。
(4) また、原告の当時の事業主であった日本港運は、神戸港の労使の申し合せに従って、原告に関する労災保険法に基づく休業補償給付の手続きを代行していたが、昭和五八年五月一日以降の分については、原告が自ら請求するとしてその用紙を右事業所に請求し、殊に同年六月一日から七月六日までに係る分の請求に関して、担当医師、事業主及び神戸東労働基準監督署等との間で、治療をめぐってトラブルが発生した(<証拠略>)。
(二) 第二傷害事故の発生とその治療状況
証拠(<証拠略>)によると、原告は、昭和六〇年九月五日川西港運株式会社において艙内荷役作業中右示指末節骨々折の負傷をし、同日から神戸みなと病院において業務上災害として休業・治療を受け、同年一〇月三一日まで労災保険法に基づく休業補償給付を受給したことが認められる。
(三) 第三傷害事故の発生とその治療状況
証拠(<証拠略>)によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和六〇年一一月五日川西港運株式会社において艙内荷役作業中、左肩打撲(肩板損傷の疑い)の負傷をし、同日から医療法人栄昌会吉田病院に通院し、業務上災害として休業・治療を受けた。ところで、原告の同年一一月八日当時の症状は、レントゲン上は異常が認められなかったが左肩関節部に何か所か圧痛があり、左肩関節を動かすと痛みを伴うというものであり、通常この程度の左肩打撲では入院の必要など認められないのであるが、原告が非常に痛みを訴え強く入院を希望したため、主治医の宮地芳樹が取り合えず経過観察ということで、同日から二一日まで吉田病院に入院することを認めたのであり、原告は退院後も引き続き吉田病院に通院して治療を受けた。
(2) そして、宮地医師は、昭和六一年二月一三日原告を診察した際、受傷後相当期間が経過し、治療期間も十分であることや、原告が訴える症状については他覚的所見に乏しいことから、二月末には原告の症状が固定し就労可能であるとの診断をし、原告に対し、「治療は今月いっぱいにし、来月から仕事にでるように」と告げたところ、原告はこれに異を唱えて、痛みがあり未だ治癒しておらず、仕事はできそうにもない旨を言い張り、更に同年二月二〇日にも、宮地医師が原告に一三日と同趣旨のことを告げると、原告は不満な態度をあらわにして診察室から出ていった(<証拠略>)。
(3) そして、原告は、一週間後の昭和六一年二月二七日興奮した状態で診察室の中に入り、原告の左肩に当たったという重さ約一〇キログラムのホコを床の上にドンと置き、大きな声で宮地医師に対し、「これが落ちてきてできた怪我やから、そんなに早く治るなず(ママ)がない」と怒鳴り、宮地医師と少しの間やりあった(<証拠略>)。
(4) 更に、原告は、治癒していない旨の診断をしてもらうべく、昭和六一年三月上旬頃神戸大学医学部附属病院で受診した。同病院の水野耕作医師は、原告について種々の精密検査が行ったが、原告には特に異常と思われるものはなく、原告の主張する痛みはいずれも医学的所見に乏しく、臨床所見と一致しない旨の診断がなされた(<証拠略>)。
(5) しかし、原告は、昭和六一年三月二〇日再度吉田病院を訪れ、宮地医師に対し痛みがあって治癒していないことを強調して、その後も引き続き吉田病院で治療を受けた。他方、宮地医師としては、原告の症状は固定しており、原告の訴える痛みに医学的裏付けは認められないと診断していたが、これまで治療をめぐり原告と再三にわたり口論となり、その都度他の患者に迷惑がかかっていたことや、二月二七日にはホコまで病院に持参したことなどを思い、やむなく更に三回にわたり各一か月の休業治療を要する旨の診断書を作成した(<証拠略>)。その結果、原告は昭和六一年五月三一日まで休業して治療を続け、同日まで労災保険法に基づく休業補償給付を受給することができた。
(6) ところで、宮地医師は、昭和六一年五月三一日をもって症状固定・治癒の診断を正式に行い、神戸東労働基準監督署にその旨の意見書(<証拠略>)を提出していた。ところが、原告は、同監督署に対し、同年六月一日から七月二三日までの休業補償給付を請求し、同監督署から同年八月五日付で不支給決定(<証拠略>)を受けるや、同年八月二六日付で労災法に基づく審査請求を提起し、あくまでも第三傷害は治癒していないと主張した。
(7) なお、原告は昭和六一年六月三日に兵庫労働基準局の官医の診察を受けたが、その結果も就労可能と診断された。
(四) 神港職安への不出頭
証拠(<証拠略>)によると、次の事実が認められる。
(1) 川西港運から神港職安に対し、原告の第三傷害について、昭和六〇年一一月五日から昭和六一年五月三一日までの休業分について、公傷の届出書(宮地医師作成の診断書(<証拠略>)が提出されたが、同年六月一日以降の休業分については、公傷の届出書が提出されなかった。
(2) しかし、原告は、昭和六一年六月一日から九月二九日までの間、神港職安に無届けで出頭しなかった。
(五) 本件登録取消処分がなされるに至った経過
証拠(<証拠略>)、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1) 神港職安の担当者は、従来から、公傷及び私病者の長期不出頭者についてリストを作成し、定期的な呼出しを行っていたが、昭和六一年九月一一日頃、リストにあげられた者につき脱漏がないか、全港湾支部の記録と照合したところ、原告は既に同年五月三一日で公傷期間が終了していて、同年六月一日から無届け不出頭となっていることが判明した。そこで、担当者は、神港職安に保管されている原告の記録を精査したところ、原告はこれまで公傷についての治療をめぐり、医師、事業主、労働基準監督署等の間でトラブルを起こしており、原告の登録日雇港湾労働者としての適格性に問題があることが分かった。
(2) 原告は、昭和六一年九月三〇日神港職安に出頭し、明日から就労したいと申し出た。しかし、神港職安の担当者は、原告の登録日雇港湾労働者としての適格性について調査する必要があると考え、その場で原告から事情聴取を行い、原告から日雇手帳(<証拠略>)を預った上、こちらから呼び出すまで仕事に出るのは待つようにと告げた。
(3) そして、神港職安の担当者は、昭和六一年一〇月一日原告に不出頭理由について書面を提出させ、更に同年一〇月三日にも原告から重ねて事情聴取を行う一方、同年一〇月二日及び七日に宮地医師及び荻原医師から、同年一〇月四日及び六日に日本港運及び川西港運の担当者から、同年一〇月六日神戸東労働基準監督署の担当者から事情聴取し、原告の無届け不出頭及び各傷害について調査を行った結果、原告が第一傷害及び第三傷害について意図的に公傷期間の引き延ばしを行い、かつ、昭和六一年六月一日から昭和六一年九月二九日までの間、正当な理由なく神港職安に出頭しなかったものと判断した。
(4) なお、その間の昭和六一年一〇月八日には、神戸船内荷役協会会長が神港職安所長に対し、原告について公傷が多発し、その都度トラブルが発生して事務処理に困難を来しているので、確固たる処置を求める旨の申入れ(<証拠略>)を行った。
(5) そこで、神港職安所長は昭和六一年一〇月一七日原告に対し、本件登録取消処分(<証拠略>)をした。
2 本件登録取消処分の適法性について
(一) 処分理由の存在―その(1)
(1) 登録日雇港湾労働者が「港湾運送の業務の正常な遂行をみだりに妨げるおそれのある者、その他港湾運送の業務に使用されるのに必要な適格性を欠く者」に該当するに至ったとき、公共職業安定所長は当該労働者の登録を取り消すことができる(昭和六三・五・一七法律第四〇号による改正前の港湾労働法〔以下「旧港湾労働法」という。〕一〇条一項一号、八条一項三号)。旧港湾労働法がこのような者を登録取消事由としたのは、かかる者の存在が港湾運送事業主の業務に支障を来し、それがため日雇港湾労働者の求人を自粛することにもなりかねず、ひいては港湾運送の秩序を著しく乱すおそれが生ずるからである。
(2) これを本件についてみるに、前記1(一)(三)の認定によると、原告は、第一傷害及び第三傷害に関して、医学的裏付けのない痛みを理由に公傷期間の意図的な引き延ばしを行い、その間労災保険法に基づく休業補償給付を不正受給しており、原告は、旧港湾労働法一〇条一項一号、八条一項三号所定の登録取消事由に該当する者であることが認められる。
(二) 処分理由の存在―その(2)
(1) 登録日雇港湾労働者は、疾病又は負傷等の正当な理由がない限り、公共職業安定所に出頭しなければならない(旧港湾労働法二〇条一項)のであり、この義務に違反して出頭をしばしば怠たれば、同所長は日雇港湾労働者の登録を取り消すことができる(旧港湾労働法一〇条一項五号)。
(2) これを本件についてみるに、前記1(三)(四)の認定によると、原告は、昭和六一年六月一日から九月二九日までの間、疾病又は負傷等の正当な理由もないのに無届けで神港職安に出頭しなかったことが認められ、原告の右行為は、旧港湾労働法一〇条一項五号、二〇条一項所定の登録取消事由に該当することが認められる。
(三) 他事考慮
原告は、本件登録取消処分は、原告と対立していた全港湾支部長が神港職安所長に働きかけてされたものであり、他事考慮によって作為的に原告を狙い打ちにしたものであると主張するが、本件登録取消処分がなされた経過は前記1(五)で認定したとおりであり、本件登録取消処分が他事考慮によって作為的に原告を狙い打ちにした違法なものとは認められない。
(四) 就労拒否、日雇手帳の取上げ
(1) 原告は、本件登録取消処分の違法事由として、神港職安の担当者が昭和六一年九月三〇日原告から日雇手帳を取り上げ、原告の同年一〇月一日以降の就労を拒否したことを指摘するが、右指摘に係る事実が本件登録取消処分の違法事由とはなり得ず、右事実が存在したからといって、そのために本件取消処分が違法なものとは認められない。
(2) 原告は、原告の昭和六一年一〇月一日以後の就労を認めると、原告の日雇港湾労働者の登録を取り消せないから、神港職安の担当者が原告の就労を拒否したものであると主張するが、原告が本件登録取消処分がなされた当日も就労を認められて就労していたとしても、原告に旧港湾労働法一〇条一項所定の登録取消事由が存在する限り、就労中の原告に対し本件登録取消処分をすることに法律上何らの支障もなく可能であり、原告の前記主張は理由がない。
(3) のみならず、前記1(五)の認定によると、神港職安の担当者は、原告の登録日雇港湾労働者としての適格性(旧港湾労働法八条一項三号)に問題があり、適格性について改めて調査する必要があったので、昭和六一年九月三〇日原告から日雇手帳を預かり、同年一〇月一日から一七日まで原告の就労を認めなかったのであるが、原告は現に当時も右適格性を著しく欠いていたことが認められ、原告に調査期間中の就労を認めれば、再度公傷等によるトラブルが発生する可能性も絶無ではなかったことが認められるので、神港職安の担当者が緊急避難的措置として、昭和六一年九月三〇日原告から日雇手帳を預かり、同年一〇月一日から一七日まで原告の就労を認めなかったからといって、右措置が違法であるとは認められない。
(五) 結論
以上の次第で、本件登録取消処分が違法であるとは認められず、請求原因2項は理由がない。
三 請求原因3項(本件裁決の違法性)について
1 原告は、兵庫県知事が本件登録取消処分の違法性を認識しながら本件裁決をしたと主張するが本件取消処分が違法であるとは認められないので、原告の右主張は理由がない。
2 原告は、本件裁決が行政不服審査法二七条、三四条六項、四〇条三項ないし五項に違反すると主張するが本件全証拠によるも、本件裁決が右行政不服審査法の各条項に違反するものとは認められない。
3 以上の次第で、本件裁決が違法であるとは認められず、請求原因3項も理由がない。
四 結論
よって、本件登録取消処分・裁決が違法であるとは認められないので、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。
(裁判官 紙浦健二)